栗林慧 虫の目図鑑

カンタン 草原から風情ある鳴き声

2014年08月19日 11:57

晩秋(ばんしゅう)の草原の一角。枯(か)れかけた野イチゴの葉にとまって鳴いている。震(ふる)える羽の動きを表現するためにスローシャッターで撮影
晩秋(ばんしゅう)の草原の一角。枯(か)れかけた野イチゴの葉にとまって鳴いている。震(ふる)える羽の動きを表現するためにスローシャッターで撮影
 夏も終わりに近い草原では、コオロギなど鳴く虫たちの声があちこちから聞こえてきます。それが夜になると、一段(いちだん)とにぎやかな大合唱に変わります。そんな鳴く虫たちの中に、ここで紹介(しょうかい)するカンタンもいるのですが、他の虫たちに比(くら)べて鳴き声が優(やさ)しく静かなので、なかなかその姿(すがた)を見つけることができません。

鳴いているオスの声に誘(さそ)われて背後(はいご)から近づくメス。この後、オスの背(せ)の羽の付け根にある臭腺(しゅうせん)をなめ始める
鳴いているオスの声に誘(さそ)われて背後(はいご)から近づくメス。この後、オスの背(せ)の羽の付け根にある臭腺(しゅうせん)をなめ始める
 その鳴き声は聞く人によって表現(ひょうげん)は異(こと)なるものの、私(わたし)には「ルルルルルルル」と聞こえます。一度鳴きだすと一本調子で鳴き続けますが、非常(ひじょう)に神経質(しんけいしつ)でちょっとした周りの異常(いじょう)を長い触角(しょっかく)で感じ取ってはすぐに鳴きやんでしまい、その後なかなか同じ場所で鳴きだしてくれません。カメラを20~30センチの距離(きょり)まで近づけなければならない撮影(さつえい)では、その鳴いている瞬間(しゅんかん)をうまく写しとるのに大変な苦労と根気を必要とします。

精子嚢(せいしのう)が突(つ)き刺(さ)さったメスの腹部(ふくぶ)。オスは、メスが背(せ)の臭腺(しゅうせん)をなめている間に、精子嚢が付いた針(はり)をメスの生殖器(せいしょくき)に突き刺す。精子は針の中を通って送りこまれる
精子嚢(せいしのう)が突(つ)き刺(さ)さったメスの腹部(ふくぶ)。オスは、メスが背(せ)の臭腺(しゅうせん)をなめている間に、精子嚢が付いた針(はり)をメスの生殖器(せいしょくき)に突き刺す。精子は針の中を通って送りこまれる
 草の中ならどんなところでも鳴くのではなく、ススキなどのような細長い葉や広い空間に身を置いて鳴くことはなく、必ずといってよいほど幅広(はばひろ)い葉っぱのふちのギザギザと切れ込(こ)んだ部分や、虫食いの穴(あな)のところからからだをのぞかせて鳴くおもしろい習性(しゅうせい)があります。どうやら、鳴き声をある方向に向けて効率(こうりつ)よく響(ひび)かせる術(すべ)を知っているようです。

 秋も深くなってくると、昼間でも鳴くようになり、ススキの穂(ほ)が揺(ゆ)れる草原の中、どこからともなく風に乗って聞こえてくるカンタンの鳴き声は、とても風情(ふぜい)のあるものといってよいでしょう。


=2014/08/19付 西日本新聞朝刊=

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