栗林慧 虫の目図鑑

クツワムシ 騒々しい音で存在感示す

2013年11月19日 15:09

飛ぶことが少ない昆虫だが、すむ環境(かんきょう)が気に入らなくなると飛び立って移動(いどう)する
飛ぶことが少ない昆虫だが、すむ環境(かんきょう)が気に入らなくなると飛び立って移動(いどう)する
 秋も深くなり、毎夜野山に響(ひび)いていた虫たちの大合唱の声もほとんど聞かれなくなりました。鳴き声の主たちの中でも、その声がけっして美しくはないまでも、最大の音量でその存在感(そんざいかん)を示(しめ)していたのがクツワムシです。

 茂(しげ)みの中に身を潜(ひそ)めて、「ガチャガチャ」とあまり抑揚(よくよう)のない、騒々(そうぞう)しい音を奏(かな)でるこの虫は、ぼくにとっていつまでも消えない印象を植え付けてくれた昆虫(こんちゅう)だと言えます。

2種類の体の色があって、こちらは緑色型。鳴いている瞬間(しゅんかん)
2種類の体の色があって、こちらは緑色型。鳴いている瞬間(しゅんかん)
 今から60年前のちょうど小学校に入ったばかりのころの夏休み。毎日、日が暮(く)れると、庭先の茂みの中で「ガチャガチャ」と大きな声で鳴くクツワムシと呼(よ)ばれる虫の姿(すがた)をどうしても見てみたい誘惑(ゆうわく)にかられました。

 懐中(かいちゅう)電灯がまだ手元に無かった時代です。母に手伝ってもらい、白い画用紙をメガホン状(じょう)の筒(つつ)にして中にロウソクを立て、その手製(てせい)の懐中ライトを作りました。弱い光をたよりに、鳴き声が聞こえる方に歩み寄(よ)ると、相手は驚(おどろ)いたらしく、すぐに鳴きやんでしまいます。

鳴いている姿(すがた)の正面。羽の動きを表現(ひょうげん)するためにストロボの閃光(せんこう)時間を300分の1秒にして撮影(さつえい)
鳴いている姿(すがた)の正面。羽の動きを表現(ひょうげん)するためにストロボの閃光(せんこう)時間を300分の1秒にして撮影(さつえい)
 仕方なく次の鳴き声のする方を探(さが)して、何度目かに、ついにその鳴いている姿を見ることができたときの喜びは、今でもはっきりと記憶(きおく)に残っています。なにしろ、クツワムシの鳴いている姿など、友達はおろか、父も母もまだ見たことがないのです。それを発見したのですから当然です。

 今年の夏、庭先の茂みの中から聞こえてくる鳴き声をたどって撮影(さつえい)したのが、これらの作品なのです。



=2013/11/19付 西日本新聞朝刊=

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