紙面から

【ココ・カラ Teens】夜のピクニック(恩田陸著)

2014年01月15日 21:22

 自分の外見や体のコンプレックス、だれかを思う気持ち、家族とのいさかい…。深く悩(なや)んでいることほど、人に知られたくない。でも長い間いっしょにいるうちに、悩みをふともらしてしまったり、夢(ゆめ)を語ってしまったりする。特に夜には。

【ココ・カラ Teens】夜のピクニック 紙面はこちら

 恩田陸(おんだりく)(1964~)の「夜のピクニック」は、ある高校の鍛錬(たんれん)歩行祭という行事の物語だ。朝8時から翌朝(よくあさ)まで計80キロ。夜中の数時間の仮眠(かみん)をはさみ、前半はクラスごとに。後半は走ってもいいし、歩いてもいい。

 貴子(たかこ)の悩みは同級生の融(とおる)のことだ。ほとんど口をきいたこともないのに、刺(さ)すような視線(しせん)を感じる。2人は実は異母(いぼ)きょうだいで、融の父の恒(わたる)が貴子の母の聡子(さとこ)と浮気(うわき)をしてうまれたのが貴子。聡子は働いて一人で貴子を育ててきた。貴子はそんな自分の境遇(きょうぐう)に引け目を感じたりしていない。胸(むね)を張(は)って生きている。

 でも高校入学前に恒が病死し、葬式(そうしき)で融に会った。そのとき融から放射(ほうしゃ)された憎(にく)しみにとまどい、怒(いか)りすら感じた。私(わたし)に罪(つみ)はないのに、と。

 2人は3年で同じクラスになり、いがみ合うような関係が続いている。このままでいいのか-。貴子はひそかな誓(ちか)いを胸に歩行祭にのぞむ。しっとに胸をこがしたり、友人の秘(ひ)めた恋(こい)や悩みに気づいたり。かけがえのない時が刻(きざ)まれる。

 登場人物の一人が言う。「やっぱ、自分のことっていうのは分からないもんだな」。逆(ぎゃく)に言えば、友だちは意外にあなたのことを見ているし、知っている。だから人と話すのはおもしろい。

 「みんなで、夜歩く。ただそれだけのことがどうしてこんなに特別なんだろう」。心にふれる文章がいくつも。なつかしくて、せつなくて、あたたかい。いつまでも貴子や融と歩いていたいと思わせてくれる。

書店員に選ばれた本

 「夜のピクニック」は2004年に出版(しゅっぱん)され、05年に第2回本屋大賞を受賞した。この賞はかなりユニークだ。文学賞のほとんどは有名な作家や評論家(ひょうろんか)が選ぶが、本屋大賞はおおぜいの書店員が「一番売りたい本」を投票で決める。「読者に最も近い賞」と言われることもある。この賞を受ける作家は毎年、賞の発表会で書店員に囲まれて、とてもうれしそうだ。

【ココ・カラ Teens】夜のピクニック 紙面はこちら

=2013/12/26付 西日本新聞朝刊=

西日本新聞のイチオシ [PR]

西日本新聞のイチオシ [PR]